川崎幸病院が毎月さまざまなテーマで開催している健康セミナー「みんなの健康塾」。
今回は、2019年8/28に行われた「気になる婦人科症状の診断と診療〜不正出血・月経痛・子宮下垂感〜」についてレポートいたします。
もしかしたら、その症状放っておくと危険かも?!この記事を読んで、症状に思い当たる方は、ぜひ早めに婦人科さんを受診してみてくださいね!
<教えていただいたのは!>
川崎幸病院 婦人科 黒田 浩先生
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・指導医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本婦人科腫瘍専門医
不正出血の原因とは?
不正出血とは、ホルモン異常やさまざまな病気が原因で、月経期間以外に腟や子宮などから出血する症状です。
突然の不正出血は、誰もが驚いて不安になりますよね。でも、ネットでいくら検索したり、逆に怖くて見て見ぬ振りをしても、不安はますます膨らむばかり。
大切なのは、急な不正出血の際にも不安にならないよう、定期検診を習慣にすること!そして、もし不正出血が頻繁にあったり、出血量が多い場合は、婦人科受診を検討することも必要です。
黒田先生は、不正出血の原因として次の3つを挙げています。
①ホルモン異常や排卵出血
②腫瘍性
③炎症性(閉経後)
①の「ホルモン異常や排卵出血」の場合は、たまたま排卵がしにくかったなど、病的ではないケースです。病気ではないため、まずは経過観察となるのが一般的です。②の「腫瘍性」の出血では、子宮筋腫などの良性のしこりや、子宮頸がんや子宮体がんといった悪性腫瘍が原因とされます。良性のしこりに対しては症状に合わせて、悪性が疑われた場合にはしっかりと精査したのち、適切な治療方法を検討します。③の「閉経後の炎症性」の出血では、加齢によって腟粘膜が弱くなって起こる出血です。
一口に不正出血と言っても原因によって、治療が必要なもの、必要ではないものと様々です。いざと言うときに慌てないためにも、定期的な検診を習慣化することが何より大切です。
不正出血は年代によって、その原因が異なります。
頻度として多いのは、閉経前の女性ではホルモンバランスが崩れて起きる「機能性出血」と、排卵時に起きる「排卵出血」の二つです。
一方、閉経後では、女性ホルモンの分泌低下で腟が萎縮して出血しやすくなる「萎縮性腟炎」による出血が多くなります。
また、20〜40歳代の不正出血には、子宮頸がんによるものが隠れていることもあります。
子宮頸がんは、検診で早期発見することができるため、20歳になったら2年に一度は婦人科検診を受けるようにしましょう。
子宮頸がんはワクチンで予防できる!
20〜40歳代に多い子宮頸がんは、じつはワクチンで根絶が可能ながんでもあります!
そもそも子宮頸がんの原因のほとんどは、HPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルス感染によるもの。このウイルスはごくありふれたウイルスで、性交経験があれば、誰でも一生に一度は感染すると言われています。
しかし、感染したら100%がんになるというわけではありません。子宮頸部に感染したとしても、約90%は自身の免疫によってウイルスが排除されます。
ところが、残りの10%は持続的に感染して、細胞の異常な変化(子宮頸部異形成)を引き起こします。ウイルスが排除されれば正常な細胞に戻りますが、3〜10年ほど感染が持続して細胞の異常化が進むと、ついにはがん細胞となってしまうのです!
そこで登場するのが、HPVワクチンです。
性交渉をもつ前の年代の女子がワクチン接種をすることで、ウイルスへの感染自体を防ぐ1次予防の効果があります。その効果は、定期接種となっている4価ワクチンで約70%、海外で使用されている9価ワクチンではなんと約90%の予防効果があるとされています。
日本のHPVワクチンの定期接種化は2013年4月にはじまり、知らない方も多いかもしれませんが、じつは現在でも小学校6年生から高校1年生の女子を対象に無料で受けることができます。
しかし、接種者からの疼痛の訴えをきっかけに、厚生労働省は定期接種制度を継続しながらも、制度開始後わずか2ヶ月で積極的推奨を差し控えることになりました。
ところで、「積極的推奨の差し控え」とは、具体的にどんなことなのでしょうか?
これはつまり、ポスターや広報誌などで接種についてのPR活動を行わないということ。それには、接種対象者の自宅へ接種の案内通知を送ることも含まれています。
「あなたはそろそろ、このワクチンが無料で接種できる時期ですよ」という通知がなければ、よっぽど意識している方でない限り、おのずと接種への意識は遠のいてしまいますよね。
定期接種開始時には70%あった接種率は、現在1%以下に落ち込むという危機的状況となっており、WHOは2015年に、世界的にも効果と安全性が認められたワクチン接種を差し控えた日本の対応を非難しています。
2015年に名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野は、名古屋市のHPVワクチン接種対象であった7万人の女子に、HPVワクチンと疼痛に関してのアンケートを実施しました。
回答のあった約3万人分のデータを解析した結果、HPVワクチンを接種した女子と接種していない女子では、24項目全ての症状において有意差は見られず、これらの症状とHPVワクチンとの間に因果関係はないと結論づけました。
また、HPVワクチンは世界的にも推奨されているワクチンであり、先進国では高い接種率を維持しています。
<海外のHPVワクチン接種率>(2018年6月現在)
国名 | 接種率 |
スウェーデン | 85% |
イギリス | 86.7% |
カナダ | 65〜85% |
アメリカ | 49.5〜54.2% |
オーストラリア | 79% |
オーストラリアでは、2007年から積極的にHPVワクチンの接種に取り組んできた結果、すでに若年層から順に子宮頸部の全がん病変の発生率が明らかに減少したという報告があります。さらに、オーストラリアの子宮頸がん発症数は、2028年までに10万人に4例未満に減るとも予測されています。
このように科学的根拠や世界の動向から見ても、「接種するリスクばかりではなく(そもそもリスクがあるのか自体不明)、接種しなかったリスクについても冷静に考えるべき」と黒田先生はアドバイスされています。たとえ、検診で前がん状態を早期発見できたとしても、手術のリスクを回避することはできません。HPVワクチンと検診の両輪で、子宮頸がんを予防することがより大切なのではないでしょうか?
厚生労働省が積極的推奨を差し控えるなか、2019年7月26日付で千葉県いすみ市が自治体独自の判断として、HPVワクチン接種の通知を再開しました。定期接種(無料接種)の期間は決まっているため、通知が来ない地域の方々でも対象年齢の女の子のいるご家庭では、今一度接種についてよくよく検討いただきたいと思います!
その月経痛、子宮内膜症のせいかも!?
みなさん月経痛はありますか?毎月orときどき?痛みは強いor弱い?
月経痛は、子宮内膜が剥がれて経血になり、それを押し出すために子宮が収縮して起きる痛みです。
月経痛の感じ方は個人差が大きく、痛みの差から正常と異常(病的)を判断することは難しいとされます。ただし、放置してはいけない病的な月経痛が隠れているケースもあるので、注意が必要!
それが、「子宮内膜症」です。
子宮内膜症とは、本来あるべき内膜以外に子宮内膜組織が異常発生する病気です。出血が子宮内膜以外で起こるので、痛みが激しく、癒着の原因にもなります。
子宮の筋層にできるものを「子宮腺筋症」、卵巣にできるものを「チョコレート嚢胞」と呼んでいます。
子宮内膜症を放置するとなぜ良くないのでしょうか?その理由は二つあります。
①不妊の原因になる
②卵巣がんの原因になる
黒田先生曰く、子宮内膜症患者の方を詳しく調べてみると、約30%の方が不妊症にもなっているとのこと!癒着による卵管閉塞や、出血・炎症時に産生されるサイトカインが排卵や受精卵の質を低下させるために不妊になるとわかっています。
また、卵巣にできるチョコレート嚢胞は、卵巣がんの前がん病変とされ、そのうち1%ががん化すると言われます。特に40歳以上の女性に多く、閉経後でも注意が必要とのことです。
子宮内膜症は、内診や経腟エコーでスクリーニング検査を行い、その後MRIで精密検査を行って診断します。治療では、ホルモン治療や内視鏡をはじめとした手術があります。
治療法が確立された病気ですので、月経痛が気になるときは放置せずに一度は婦人科を受診するようにしましょう!
不快な症状「子宮脱」は治せます!
子宮脱とは、経腟分娩や加齢などにより、骨盤底筋群と呼ばれる子宮を支える筋肉や靭帯が伸びきって、子宮や腟が下垂した状態を指します。
症状としては以下のようなものが挙げられます。
・股に何か挟まった感じがする
・お風呂に入ると腟に何か触れる
・尿がうまく出ない
・頻尿である
・便秘である
50歳以上の女性の約50%に症状があるようですが、デリケートな部分のため、なかなか受診に至らないのが現状のようです。
しかし、重症化すると、性器出血や腎機能障害の原因にもなってしまう、あなどれない病気です!
治療法には、自宅で簡単にできる骨盤底筋体操や、ペッサリーというゴム器具を腟内に装着して子宮を支える保存的治療、手術療法などがあります。
①床に仰向けに寝て膝を立て、足を30〜40cm開く
②肛門と尿道をギュッと締める
③力を抜く
②と③を5〜10秒ずつ繰り返します。
黒田先生のいる川崎幸病院で行っているのは「腹腔鏡下仙骨固定術」という手術です。子宮体部を摘出したうえで、医療用メッシュを用いて腟を仙骨側に引き上げて正しい位置に固定する操作を、腹腔鏡で行います。
傷が小さくて済み、便秘や頻尿などの不快な症状の改善や、再発率が低いというメリットがあります。ペッサリーは3ヶ月に1度、交換のための通院が必要になりますが、腹腔鏡下仙骨固定術は継続的な通院が不要という利点もあります。
まとめ
子宮頸がんを早期発見するために、婦人科検診には必ず行くようにしましょう!接種体制が迷走しているHPVワクチンですが、世界的にも有効性と安全性が認められた「がん予防ワクチン」です。定期接種対象の女の子はぜひ接種の検討を!また、強い月経痛や子宮脱の症状は、一人で悩む前に婦人科に相談すると、きっと良い解決策が見つかるはずですよ!
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