ふと街を歩いていると、以前に比べて、駅前に「人工透析」と掲げた看板が目につくようになったと思いませんか?
じつは日本で、人工透析を受けている患者数は、2016年時点で約32万9千人※いるといわれています。
専門クリニックの増加により、患者さんにとってグッと身近に便利になった人工透析ですが、果たしてそこでは一体どんな治療を行っているのでしょうか?
将来、家族や自分がお世話になるかもしれない人工透析について、腎内科クリニック世田谷 院長の菅沼先生にお聞きしました!
※日本透析医学会「図説 わが国の慢性透析療法の現況」p3より
腎内科クリニック世田谷 院長 菅沼 信也先生
日本腎臓学会認定腎臓専門医、日本透析医学会認定透析専門医
人工透析とは、どのような治療ですか?
人工透析とは
菅沼先生「人工透析は、慢性腎不全で腎臓機能が低下した末期腎不全患者さんの、腎臓の代わりを担う療法です。施設で行う場合は、週3回、1回につき4〜6時間の透析を実施するのが一般的です。」
腎臓の機能が損なわれると
菅沼先生「そもそも腎臓では、尿をつくって体内の老廃物や毒素を排出する働きのほか、水分や電解質(ナトリウム、カリウム、リンなど)のバランスを整えたり、血圧調整やビタミンDを作って骨を丈夫にしたり、赤血球をつくるなど様々な働きをしています。
腎臓の機能が損なわれると、むくみや血圧上昇、貧血、夜間頻尿といった症状が現れます。
一度、慢性腎不全となると回復は見込めず、食事療法や薬で進行を遅らせる治療を行うのですが、それも進むと、意識障害や呼吸困難といった尿毒症の症状が現れ、放置した場合は最悪死に至ることもあります。」
【腎臓移植】か【人工透析】か
菅沼先生「そこで、腎臓機能が極限まで低下している末期腎不全の患者さんは、【腎臓移植】か【人工透析】を選択することになります。
腎臓機能の指標として使われる血清クレアチニンの値が8mg/dlを超えたら人工透析の導入を検討するのが一般的ですが、私のクリニックでは、数値だけで導入を判断するのではなく、むくみや食欲不振、貧血の進行など、自覚症状が出てからの導入をお薦めしています。
経験則として、血清クレアチニン10mg/dlでも元気な患者さんはおられますし、きちんと診断した上で、本当はまだ必要ないにも関わらず早期に透析を導入しても、メリットよりもデメリットが上回ってしまうことが少なくないからです。」
充実した腎内科クリニック世田谷の透析設備
▲腎内科クリニック世田谷の透析室。全55床あり、完全個室も2部屋完備している。無料wifiが設置され、パソコンを持ち込んで、透析中に仕事や映画鑑賞する方も多い。
▲菅沼先生のクリニックで使用されている血液浄化器。自己穿刺後在宅血液透析(HHD)開始。
人工透析には、どのような種類があるのでしょうか?
人工透析の分類
菅沼先生「大きく分けると、
- 病院やクリニックなどの施設で行う【施設透析】
- 患者さんの自宅でご自分の手で行う【在宅透析】
の二つに分けられます。
また方法別としては、
- 体外に血液を引き出し、透析器(血液浄化器)の中に循環させて老廃物や余分な水分を取り去って、綺麗な血液をまた体内に戻す【血液透析】
- お腹の中(腹腔内)に透析液を入れて、血液からの老廃物や余分な水分などを腹膜を介して透析液にうつす【腹膜透析】
の大きく二つに分けることができます。」
▲末期腎不全となると、腎臓移植か人工透析で治療する。人工透析にも色々な種類がある。
人工透析の種類
菅沼先生「人工透析にもいくつか種類があり、患者さんの状態に合ったものを選択することが非常に重要です。上記人工透析療法の全てに当院は対応可能です。」
前希釈大量液置換オンラインHDF(OHDF)
現在主流となっている血液透析濾過(HDF)の中でも、前希釈大量液置換オンラインHDF(OHDF)は大量に透析液を補液し老廃物を除去する方法で、比較的年齢の若い肥満傾向のある方や、透析アミロイド―シスのリスクが高い長期透析歴の方に向いています。
間歇補充型HDF(I-HDF)
間歇補充型HDF(I-HDF)は、少量の透析液を頻回に補液する、日本で近年開発された新しい透析方法です。I-HDFに切り替えることで体重が増加する傾向があり、食の細いやせ過ぎの方やお年寄りの方に適しています。
長時間透析(LHD)
長時間透析(LHD)は、通常1回4〜5時間の透析時間を6時間以上行う透析方法です。時間をかけてゆっくりと老廃物と余分な水分の除去を行うため、身体への負担が少なく、透析後の疲労感も軽減されます。また、血圧の改善や貧血の改善も見られます。
菅沼先生「当院で行った調査では、LHDに切り替えた患者さんのエリスロポエチン(EPO)抵抗性指数(ERI)と赤血球造血刺激因子製剤(ESA)投与量が大きく低下しました。ERIやESA投与量は低値であるほど生命予後が良いとされています。」
▲LHDはERI、ESA投与量が有意に低下した。(第26回東京都臨床工学会発表スライドより引用)
在宅透析:腹膜透析(PD)及び在宅血液透析(HHD)
腹膜透析(PD)及び在宅血液透析(HHD)は、月に1~2回通院するだけで、あとは毎日自宅でご自身が透析を行う方法です。
菅沼先生「トレーニングが必要で、腹膜透析(PD)は通常約5年で血液透析(HD)への移行も考慮することになりますが、PD+HD併用療法や在宅血液透析(HHD)の選択肢もあり、身体への負担が軽いこと、通院回数が少ないこと、薬の量が少なくて済むことなど、メリットの多い透析方法です。当院でも、他県からわざわざ受診されて在宅透析を行っている患者さんもいらっしゃいます。」
透析クリニックを選ぶ際のポイントはありますか?
透析実績が大切!
菅沼先生「施設透析は週3回の通院が必要なため、アクセスの良さを重要視される方が多いと思いますが、それと同じくらい大切にしていただきたいのが透析実績です。治療レベルは施設ごとに異なり、どこで受けても同じではないからです。
これから受けられる透析の善し悪しで、ご自身の生活の質が大きく変わるため、実績までよくお調べになった上で施設を選ばれるのが宜しいかと思います。」
▲腎内科クリニック世田谷の透析実績は、全国平均を全て上回る数値となった。また、透析患者の全国平均粗死亡率が約10%のところ、平均5.5%と非常に低い値をキープしている。
よく食べ、よく運動し、よく透析する
菅沼先生「一般的に、透析の患者さんといえば食事制限が当たり前となっていますが、その考えには非常に疑問です。厳しい食事制限でやせ細り、体力まで失ってしまっては到底長生きできるはずもありません。
当院では、「よく食べ、よく運動し、よく透析する」をモットーに、塩分と水分以外は制限せずに食べたいものを召し上がっていただいています。
栄養状態がよく、筋肉量が多く、透析量が多い患者様が特に長生きされています。
透析を行いながら長生きするには、栄養状態がよい(=よく食べる)こと、筋肉量が多い(=%CGRが高い)こと、透析量が多い(=spKt/Vが高い)ことが大切です。
当院は、食事で摂取した分は、しっかり透析で抜いてバランスをとるという方針です。実際、よく食べる患者さんのほうが圧倒的に長生きされているのが分かります。」
オーバーナイト透析
菅沼先生「また、準夜間透析や、睡眠中に透析を行うオーバーナイト透析を利用すれば、透析治療を受けながらお勤めすることも可能です。当院は、準夜間透析を週3回、オーバーナイト透析を週1回実施しています。」
▲オーバーナイト透析では照明を落とし、ベッドはロールカーテンで仕切られる。睡眠時間中を利用して長時間ゆっくり透析を行うため、身体への負担が少ないというメリットも。
菅沼先生「当院では人工透析をはじめて40年以上経つ患者さんも3名いらっしゃいます。
透析は、これからの長い人生を一緒に付き合っていくものです。ご自分らしく不安なく生活できるよう、納得した施設選びをされるとよいかと思います。」
「取材後記」
今回お話をお聞きした菅沼先生は、世界的に見てもレベルの高い透析技術を追求される、熱意溢れる先生でした!
透析患者さんが毎日をより快適に、より不安なく過ごせるよう、透析の研究に邁進する姿が印象的でした。
腎内科クリニック世田谷さんは無料送迎サービスもあり、世田谷区の近隣からも患者さんが通われているそうです。
ご家族やご自身がもし人工透析を必要としたときは、ぜひ相談されてみてはいかがでしょうか?