前回は、子どもの成長に欠かせない栄養素について、消化器内科の袴田拓先生に解説いただきました。→(https://genkinomoto-plus.com/nutrition_for_children/ )
今回のテーマは、「大人のための食事術」ということで、引き続き袴田先生にお聞きしていきます。
免疫力の低下や疲れやすさ、体重が減らないといった悩みを解消するため、免疫&代謝アップが叶う食事術と、老化や心身の不調をケアする食事術について、最新の栄養医学の知見からアドバイスいただきたいと思います。
コロナ禍で不安な日々が続きますが、だからこそ食生活を見直して、健康に過ごしていきましょう!
お聞きしたのは!
新百合ヶ丘総合病院
予防医学センター 消化器内科部門 部長
袴田 拓先生
日本内科学会総合内科専門医、日本肝臓学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本人間ドック学会人間ドック健診専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本オーソモレキュラー医学会所属
免疫力アップにビタミンD、代謝アップにタンパク質!
【免疫力アップ】
免疫力アップのためのイチオシの栄養素は「ビタミンD」です!
煮干しのような丸ごと食べられる小魚や鮭、キノコ、キクラゲなどに多く含まれます。
また、ビタミンDは食物からだけでなく、日光を浴びることにより体内で生成することもできます。
ウイルス感染症予防の観点では、推奨されるビタミンDの1日摂取量は2000IUと、全量を食事から摂取するのは難しいため、サプリメントも活用する方が効果的です。
近年、「マグネシウム」も免疫力に影響があることが知られるようになりました。
大豆や小豆由来の食品、海藻類、ナッツ類、にがり、天然塩などに多く含まれています。
ただし、アルコールやコーヒーを飲みすぎると、体内のマグネシウム量が減少してしまうので、1日に1〜2杯までにとどめて、飲み過ぎには注意しましょう。
特に、食事を摂らずにお酒ばかり飲む人は、食欲不振や吐き気などの症状を伴う、低マグネシウム血症になっている可能性もあります。
ウイルス感染予防として、ビタミンCの効果を忘れてはいけません。
免疫力アップを目的とする場合は、1日3000mg以上を分けて摂取するのがポイントです。
食事から上記の量を毎日摂取することはなかなか難しいため、ビタミンD同様、サプリメントを活用するのもひとつの手です。
<ビタミンCを多く含む食品(食品100g中)>
赤ピーマン | 170g |
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ブロッコリー | 120g |
キウイフルーツ(黄) | 140g |
イチゴ | 62g |
キャベツ | 41g |
【ダイエット】
健康的に痩せるには、身体の基礎代謝をアップさせて、太りにくい身体を目指すのが一番の近道です。
基礎代謝の6割は筋肉で消費されるため、身体の筋肉量を維持することがダイエット成功の秘訣!
そのためには、筋肉の原料であるタンパク質を積極的に摂ることが重要になります!
豚肉は、タンパク質だけでなく鉄分やビタミンB群も多く含み、この三つが相まって細胞のミトコンドリアのエネルギー産生効率がアップされるため、特にダイエットにおすすめの食品です。
豚肉に多く含まれる鉄分には貧血予防だけでなく、甲状腺ホルモンを成熟増加させる効果もあり、またビタミンB1は糖質分解を促進する効果があります。
どちらも、新陳代謝アップにつながる栄養素です。
ニンニクや玉ねぎに含まれる硫化アリルは、ビタミンB1の吸収を高め、糖質分解作用を持続させる働きがあるため、豚肉と一緒に調理するのもおすすめです。
<豚肉以外の代謝アップにおすすめの食品>
食品名 | 作用 |
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ブロッコリースプラウト | スルフォラファンが、エネルギー消費量の高い褐色脂肪細胞を増加させる。 |
生姜 | ショウガオールが、体温を上昇させ胃腸の血行を促進。 |
唐辛子 | カプサイシンが、交感神経を優位にして体熱産生増加、脂肪代謝増加に作用。 |
老化対策には糖質制限!心身の不調には鉄と亜鉛を
【酸化&糖化予防】
酸化とは、身体の中の増えすぎた活性酸素が細胞や血管を傷つける反応です。
酸化を防ぐ栄養素には、ビタミンEやビタミンC、βカロチン、植物由来のファイトケミカル、近年ではビタミンB群にも抗酸化作用があることが知られています。
しかし、人体の抗酸化システムは比較的整っているとされ、もう一方の糖化を防ぐことこそがアンチエイジングにおいてより重要と考えられるようになりました。
糖化とは、身体の中で余った糖とタンパク質が結びつき、劣化してAGEs(最終糖化産物)という老化物質が生まれる反応です。
人体は、大量の糖を摂取することを想定して作られていません。
それゆえ、現代では糖尿病になる人があまりに増え、大きな問題となっています。
糖化を防ぐには、ごはんやパン、麺類、甘い食べ物や飲み物といった糖質を各自従来の半量程度に控え、AGEsを減らす以下の食品を積極的に摂るようにしましょう。
また、糖質を控えることでエネルギー不足にならないよう、オリーブ油、ココナッツオイルなど、体に良い油をむしろ積極的に摂るようにしましょう。
<AGEs生成を減らす食品の一例>
茶、健康茶 | 玄米茶、緑茶、ジャスミンティー、烏龍茶 |
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野菜、ハーブ | モロヘイヤ、新生姜、ヤーコン、サニーレタス |
発酵食品 | 豆味噌、赤ワイン、ゴーダチーズ、濃口醤油 |
フルーツ | ライム、りんご、イチゴ、ブルーベリー |
また、中性脂肪(余った糖と脂肪酸から合成される)や、アセトアルデヒド(お酒を飲むと体内で作られる)、睡眠不足や喫煙なども老化を加速させる要因となります。
健康的な生活を送る基本として、下記を心がけるようにしましょう。
<アンチエイジングな生活習慣のポイント>
・抗酸化物質(ビタミン、フィトケミカル)を摂る
・糖質を控える
・AGEsを減らす食品を摂る
・お酒の飲み過ぎ注意
・十分な睡眠
・禁煙する
・適度な運動
【抜け毛・メンタル不調ケア】
産後の抜け毛に悩む女性は意外と多いものです。
二人のお子さんを出産後、急激かつ大量の抜け毛に悩まれていた38歳女性の例をご紹介します。
この方は、近所の皮膚科で3ヶ月治療を受けても良くならず困っているところ、たまたま人間ドックで袴田先生の診察を受けました。
そのときの血液検査で、貧血はないものの赤血球サイズが小さめで、また肝機能に含まれるALP(アルカリフォスファターゼ)という酵素が少なめでした。
後日外来で精密検査を行ったところ、予想通りに鉄と亜鉛が不足していることが判明しました。
鉄は毛髪の材料となるケラチンというタンパク質を作り、亜鉛は毛根の細胞分裂を促す栄養素です。
そこで、鉄と亜鉛を薬で4ヶ月服用してもらったところ、無事に髪の毛は元通りに生えそろいました。
このような抜け毛以外にも、亜鉛と鉄が不足することで、気分の落ち込みや貧血、流産、不妊といった、さまざまなトラブルが生じます。
<亜鉛不足で引き起こされる主な症状>
□ 味覚・嗅覚障害
□ 脱毛、爪白斑
□ 風邪をひきやすい
□ 皮膚のトラブル(乾燥肌、アトピー性皮膚炎など)
□ 気分の落ち込み
□ 習慣性の流産、早産
□ 貧血(赤血球膜の脆弱化)
<鉄不足による主な不定愁訴・症状>
□ 寝起きが悪い、不眠
□ めまい、立ちくらみ、疲れやすい、だるい
□ 皮膚の湿疹、口角・口唇・舌など粘膜のできもの、抜け毛
□ 気が滅入る、うつ気味
□ イライラ、衝動的、神経過敏、情緒不安定
□ 氷・鉛筆・土・砂を食べたがる
□ 不妊、月経異常(PMS)
意外と知られていませんが、亜鉛不足は流産や早産の原因に、そして鉄不足は不妊の原因にもなるため、妊婦や妊活中の女性は葉酸だけでなく、亜鉛と鉄も積極的に摂取することが大切なのです!
また、現代は女性の社会進出が当たり前となり、多忙となる一方で、食生活が簡素化して、質的栄養異常に陥っている女性が増えています。
なかでも、生理のある50歳以下の女性の鉄不足は特に深刻で、メンタルの不調、不妊、生まれてくる子の発達障害増加の一因にもなっています!
血中のヘモグロビン値は正常でも、貯蔵鉄(フェリチン)が欠乏している「潜在性鉄欠乏症」のケースも多く、残念ながら簡単な血液検査だけでは医者にも気づかれにくく、治療になかなか結びつきにくい現状です。
上記チェックリストに当てはまるような症状がある場合は、鉄・亜鉛不足を疑って、食事の見直しやサプリメントの活用を検討してみましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
袴田先生のお話から、人の身体にとっていかに食事が大切かが分かりましたね。
特に亜鉛と鉄不足が、こんなにも色々なトラブルを引き起こすとは衝撃でした!
身に覚えのある症状ばかりで、もしかしてと思った方も多いのでは?
ぜひ記事を参考にして、健康的な毎日に役立てていただけたらと思います!