みなさんは、母子手帳の予防接種記録欄が、ここ10年ほどで劇的に変わったのをご存知でしょうか?
十数年前の母子手帳を開いてみると、予防接種の記録欄の記載はほんの少し。現在では5ページにもわたり、さらに接種スケジュールの例も追記された母子手帳もあります。
兄弟をもつママさんなら、年々ワクチンの定期接種が増えていくのを肌で感じた方も多いかもしれませんね。
格段に進歩を遂げたワクチン事情ですが、しかし、世界的に見て未だに日本はワクチン後進国という汚名を返上できてはいないようです。
今回は、そんな日本のワクチンの現状を、7月5日に開催された、ワクチンパレード集会の様子とともにご紹介させていただきます!
じつは今年で9回目を迎えるワクチンパレードですが、当日はあいにくのお天気。そのため急遽、衆議院第一議員会館の大会議室に会場を移しての開催となりました。
ワクチンギャップとは
司会進行は、文京区「細部小児科クリニック」院長の細部千晴先生です。今問題となっている、ワクチンギャップについて語ってくださいました。
ワクチンギャップとは、住んでいる国や地域によって、ワクチンを受けられる人と受けられない人が発生してしまう状況を指した言葉です。
実際、欧米では無料で受けられるワクチンが、日本では任意接種で自己負担となっている現状があります。
このような地域格差のほかにも、「ワクチンで防げる病気とは知らなかった!」という情報格差、「お隣の区では無料だけど、うちの区では有料」という経済格差、「こっちの病院では同時接種で打てるけど、あっちの病院では1本しか打ってくれない(打てない)」という施設格差などが問題となっています。
ワクチンギャップは、2000年代から少しずつではありますが解消されてきましたが、希望するすべての人(大人も子どもも!)にワクチン接種の機会を提供するため、今後も啓発活動を続けていきたいと力強く語られました。
風疹ゼロをめざして!
風疹をなくそうの会『hand in hand』は、妊娠中の風疹感染によって先天性風疹症候群(CRS)として生まれたお子さんと親御さんからなる会です。
2013年からワクチンパレードに参加している当会は、「ワクチンさえ打てばなくなる病気だから、すぐに解決されるだろう」と思っていました。
しかし、あれから5年。国も『“風疹ゼロ”プロジェクト』と銘打ち、2020年までに日本から風疹を排除する宣言を打ち出しているものの、今のままではそのゴールは遥か彼方にあるように感じているとお話されました。
この問題の最大の原因は、ズバリ大人が風疹ワクチンを打たないせいです。
現在、1歳頃と小学校入学前にMRワクチンが定期接種として組み込まれているため、2回接種した子ども達には風疹抗体がしっかりついています。
しかし、CRSは妊娠中の風疹感染が原因のため、妊娠の可能性や妊娠希望のある女性はワクチンの接種が必要です。
また男性も、いつ自分が感染して、妊婦さんにうつすとも限りません。
とくに、昭和37年〜62年生まれの男性は過去に風疹の予防接種を受ける機会がないか、あったとしても1回しか接種していないため、抗体をもたない場合がほとんど。
現在流通しているワクチンは、MRワクチンといって風疹も麻疹も予防できるワクチンです。まわりの人も生涯に2回接種することで、お腹の赤ちゃんを守ることができるとても有用なワクチンです!
「妊娠初期で風疹に感染し、まわりに反対されながらも出産しました。もうこんな想いを誰にもしてほしくないのです。」ワクチン1本で守れる命が沢山あることを忘れてはいけません。
Hibや肺炎球菌ワクチンで激減した細菌性髄膜炎
細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会の田中さんは、息子さんを連れての講演となりました。
細菌性髄膜炎は、発症すれば致死率は高く、また命が助かっても重篤な後遺症を残す可能性もある病気です。
Hibや肺炎球菌は、髄膜炎を引き起こす細菌の代表ですが、近年予防接種が導入されてから、これらが原因の髄膜炎にかかる子どもが大きく減少したと報告されています。
しかし、一方で2017年の防衛大学の集団感染を例に挙げ、日本でまだ髄膜炎菌ワクチンが周知されておらず、髄膜炎菌が増加している現状に、危機感を募らせているとお話されました。
グローバル化された現代では、海外で流行している髄膜炎菌感染症が、いつ日本に入ってきてもおかしくはありません。次世代の子ども達を守 るため、早期の定期接種化を今後も訴えていきたい、とお話してくださいました。
がん予防ワクチン“B型肝炎ワクチン”
NPO法人日本小児肝臓研究所は、B型肝炎ワクチンの定期接種を3歳児まで拡大して欲しいと訴えています。
現在、0歳までの3回接種は定期化されていますが、じつは3歳までの子どもが感染した場合、キャリア(持続感染者)になりやすいというデータがあるのです。
B型肝炎は一度キャリアになると、将来、肝臓がんに進行する恐れもあります。
乳幼児同士の接触は、唾液や噛みつきなど、大人が気づかないうちに濃厚接触が行われることも考えられます。
すべての子どもたちがB型肝炎ワクチンを接種することで、患者である子どもとも偏見なく触れ合える社会が来ることを願っています。
ポリオワクチン5回目追加接種の必要性
ポリオの会の斉藤さんと丸橋さんは、経口生ポリオワクチンからの感染でポリオを発症してしまった患者会の方です。
2012年にポリオワクチンは経口生ワクチンから不活化ワクチンに切り替わり、ワクチンが原因のポリオ発症の危険はなくなりました。その後、不活化ポリオワクチンは4種混合に組み込まれ、4回接種という現在のルールに至ります。
そして今、問題となっているのが抗体価の低下です。海外では4歳以上で追加接種するスケジュールが一般的です。
これまでに、青森県、千葉県、石川県の一部で5回目の追加接種補助を実施した自治体もあります。
今後は、日本も小学校就学前に5回目の追加接種が導入されることを期待しています。
MRワクチンで防げる亜急性硬化性全脳炎
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という難病があります。
麻疹(はしか)のウイルスが脳の神経細胞に潜み、10〜20年後に脳神経を壊す恐ろしい病気です。
SSPE青空の会の海人くん(写真中央)は、生後11ヶ月で麻疹に感染し、8歳でSSPEを発症しました。SSPEを発症するまでは、元気なサッカー少年だったといいます。
1歳までに麻疹に感染すると数万人に1人の確率でSSPEを発症するといわれており、MRワクチン接種前の子どもたちが危険にさらされています。
その現状を打開するためにも周りの大人、特に30代〜50代の接種が必 要と訴えます。1回接種では抗体は十分につかないため、2回接種が原 則です。(過去に麻疹や風疹などどちらかのワクチンを接種されていてもMRワクチンを接種されて医学的に問題ありません)
「健康な大人であれば、麻疹は1週間から10日で治る病気ですが、1歳未満のまだワクチンを打てない子ども達や、持病でワクチンを打てない人達がかかれば大変なことになる。もし自分がワクチンを打たなければ、子どもにうつして重症化させる犯人になるかもしれない、という危機感を持ってほしい」
多くの方が、このメッセージの重さに気づくことを願っています。
耳に後遺症を残すおたふく風邪
NHKテレビ小説「半分、青い。」でも、取り上げられているムンプス難聴について語ってくださったのは、特定非営利活動法人人工聴覚情報学会の真野さんです。
人工聴覚とは、手術で人工内耳と呼ばれる装置を耳に組み込み聴覚を得る方法ですが、しかし真野さんは「人工聴覚がいかに優れていても、健常者になれるわけではありません」と訴えます。
幸いおたふく風邪にはワクチンがあります。重大な後遺症を残す可能性を、ワクチンで予防することが何よりも重要なのです。
希望するすべての子どもと大人にワクチンを!
ほかにも、ワクチン啓発活動に関わる各団体からそれぞれの胸の内や志をお聞きすることができました。
みなさんの想いは、ただひとつ。「希望するすべての子どもと大人にワクチンを!」
何故、予防接種が必要なのか、おろそかにしてはいけないのか。今一度考えさせられる貴重な機会となりました。
下記サイトでは、ワクチンに関する正しい情報を公開しています。ぜひ、ご参考になさってください。
また、皆さんお子さまの予防接種だけでなく、MRワクチンや肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチン、B型肝炎ワクチン、A型肝炎ワクチンなどなど、大人にも必要なワクチンがあることをお忘れなく!
ワクチンで防げる病気の情報サイトはコチラ!
●VPDを知って、子どもを守ろう。
http://www.know-vpd.jp/index.php
●オトナのVPD
http://otona.know-vpd.jp/